( ^ω^)南部日記REBOOT

かつて「なんぶ」とか名乗ってた現:バーチャルツイッタラー昌中セツコが活動する拠点的なサムシング 気まぐれ更新よ







ファミ通文庫WEB/キミは一人じゃないじゃん、と僕の中の一人が言った

↑作品紹介試し読みの他、キャラの立ち絵もあります

著者 比嘉智康

彼女の想いを知った後、きっともう一度読み返したくなる───
比嘉智康×はっとりみつるが贈る、純度100パーセントの恋愛ストーリー
(公式HP他より引用)

あらすじ
「また多重人格ごっこして、くれないかな?」高校で再会を果たした一色華の実は、囚慈(僕)、θ郎、キイロの三人がかりで生きているチーム市川櫻介にそう告げた。
そして、華の実は昔考えたみんなの夢を叶えていきたいと言う。
僕達以外の誰かに、囚慈として扱われる不思議な感覚の中で、僕は自然と華の実を好きになっていった。
でも、知らなかったんだ。君がどんな思いで、その提案をしていたかなんて…。
不器用な二人の、純度100%の恋愛ストーリー
(KADOKAWA公式より引用)



【結末ネタバレを避けた紹介】

上を向いて歩こう 涙がこぼれないように
思い出す 春の日 一人ぽっちの夜

(坂本 九/『上を向いて歩こう』より)

2007年、『ギャルゴ!!!!!地方都市伝説大全』にてデビューを果たし、その後も『神明解ろーどぐらす』シリーズなどを執筆した比嘉智康先生の最新作。

一つの身体に囚慈、θ郎、キイロの3つの人格を宿す、『チーム市川櫻介』
高校へと進学した彼らは、小学生時代共に「多重人格ごっこ」遊びをしていた少女、一色華の実と再会を果たす。
彼女に誘われてあの頃のように「多重人格ごっこ」をすることになる囚慈たち。
繰り返す日々の中で徐々に華の実に惹かれていく囚慈。
ただ、華の実は囚慈に言えない秘密を抱えていて───?

多重人格×多重人格(?)が繰り広げる、新感覚、そして切ないラブストーリー。

【結末非ネタバレ感想】

『ギャルゴ』『ろーどぐらす』で魅せた、軽妙でテンポのよい会話劇、そして抜群の伏線回収力。
序盤から挟まれる何気ない会話の中に伏線を張り巡らせ、終盤に怒涛の伏線回収で読者にカタルシスを与える比嘉先生の文章力は相変わらず。

本作品は『ギャルゴ』『ろーどぐらす』終盤のような燃える展開こそ無いものの、その分のパワーを『泣ける』方面に全力で振ってきましたね。
イラスト担当のはっとりみつる先生の素敵な表紙も相まって泣ける一冊に仕上がってます。
ドタバタとした日常からの泣けるクライマックスという点ではKeyのノベルゲームのような作品が好きな人に特にオススメしたいです。

本編の語り部であり、音楽を愛する少年の囚慈(しゅうじ)
頭脳担当で「カッカッカ」という気持ち良い笑いの似合うべらんめえ口調のθ郎(しーたろう)
『チーム市川櫻介』の紅一点、運動神経抜群で天真爛漫、ちょっとおバカなボクっ子のキイロ。
いつも3人で脳内会話をしてる彼らの日常の賑やかな事!
どんな些細なことでも3人一緒で楽しめるって羨ましいなぁ。お小遣いや遊ぶ時間も3人で分けるのは大変だろうけども…

そしてヒロインである一式華の実(いつしきかのみ)の4つの人格も個性的
4つの人格の中で、2歳幼い甘えん坊の春雨
ちょっと古風なヤンキーの夏目
セクシー担当、大人のお姉さんな千秋
2mという個人空間絶対死守な冬月

比嘉智康先生の得意とする、個性豊かなキャラたちが繰り広げる会話劇。
会話の掛け合いや伏線回収の見事さといった比嘉節をこれでもか!と味わえる一冊で比嘉作品デビューにうってつけの一冊です!オススメ!!

てきてよ。

【ネタバレありの感想】
例によってネタバレ感想をこの下に書きますんで、未読の方はここでブラウザバック推奨。



















































はい、というわけでいきますよネタバレ感想。


て き て よ

生 ま れ て き て よ か っ た

いや…比嘉先生。泣きますよあんなの…。

終盤、ついに囚慈と華の実が結ばれてからの展開がもう卑怯です。
付き合いたてのカップル特有の甘い空気の中生まれてくる様々な略語。
『ろーどぐらす』既読ファンへのサービスとして登場した「うむにゅ」とかさ…。
「こういうファンサービス嬉しいな~」ぐらいの感じで読んでましたよ。

それが、春雨の叶えたかった夢を囚慈が既に叶えてあげていたという展開に持ってくるのほんとズルい。
人生で最も泣ける平仮名四文字ですよ?「てきてよ」って文字だけでウルっときます…。

中盤、華の実と再会したときにキイロが「かつて華の実の中にあった4つの光=人格」が一つになっていることに気が付いたシーン。
あそこは初見だと完全にひっかかりました。
4つの人格全てが消えてしまっていて、目の前の少女は華の実本人であると錯覚しました。
その後の夜の小学校での「囚慈鬼」のくだりで何となく気が付きましたけども。

タイムカプセルを掘り返すシーンでθ郎が「まるで埋めたばかりの場所を、掘り返してるみてえにサクサクだな」と言うシーンや、過去に賞状の束を女子トイレに投げ込むシーンなど伏線も要所に仕込まれていましたね。
何より冒頭から登場していた「赤い布地のダブル四分音符」ですよ!
プロローグで華の実が作っていた「フェルトを使ったサクランボ」がクリスマス会でチーム市川櫻介の手に渡り、その出来事がきっかけで小学生の華の実が救われる展開が大好きです。
θ郎のように勉強ができるわけでもない、キイロのように運動で活躍できるわけでもない、ただの音楽好きな囚慈少年が誰よりも先に華の実の心を救っていた展開に泣きました。

チーム市川櫻介の「表層」「観覧席」という表現も良かったですね。
それぞれが得意な分野の時に「表層」に出て活躍、勉強や運動以外の分野───例えばダンスで疲れた状態で自転車に乗って帰宅する囚慈の優しさが感じられるシーンが好きです。
ラーメンを食べるときや運動後の一番美味しくコーラを飲めるタイミングを3人で仲良く「表層」を切り替えて楽しんでいるシーンの描写も良かった。

そして「タバスコを思い出せ!」といった3人共通の思い出を囚慈が読者に説明していく語り口が面白かったですね。
一つ一つの思い出を3人で共有している、そんな仲良しチーム市川櫻介の活躍をまだまだ見たいなぁというのが素直な感想です。
あとがきで触れてた「恋をしたθ郎の物語」とかめちゃくちゃ読みたいです。
笠地蔵事件で触れていたθ郎の理想の女性とか登場してたんだろうなぁ…。
電子書籍の自費出版とかさ…、それこそファミ通文庫の10倍の値段でもいいから読ませてくださいお願いします…!!!

っと、脱線気味なので感想に戻りましょう。

終盤、ついにカップルとなった囚慈と華の実(春雨)の甘々としたイチャイチャが良かったですね。
二人だけでゲラゲラ笑っちゃうような略語がどんど産まれてくとか、随所に高校生カップルらしさがよく描けていたと思います。
それだけに最後のデートで真実を知ってしまった時の衝撃といったら。
終わりが来ることを知っていたからこそ、少しでも楽しい日々が過ごせるよう影ながら後押ししてくれていたθ郎とキイロがいい奴らすぎる。

春雨と囚慈の最後のひと時が特に泣けるんですよ。
大好きなシュウジお兄ちゃんと過ごす最後のひと時なのに、これから目覚める華の実のためにこれまでの経緯をゆっくりと語る春雨。
明かされる冬月、夏目、千秋の最後。
華の実に守られながらチーム市川櫻介との幸せな日々を過ごした彼女たちが、今度は華の実の為に自らを犠牲に、彼女が戻りたくなるような日々を目指す。
華の実を取り巻く辛い現実の中で一人、また一人と消えていく彼女たちの姿を想像してここら辺からずっと泣きっぱなしでした。

そして春雨が全てを語ったあとに、語り部は再び囚慈に。

『春雨、きみは今、ずいぶん眠そうだね。』

↑この一文で胸が苦しくなりました。

そこから語られる、かつて囚慈が華の実の心を救った出来事。
どんどん近づいてくる、終わりの瞬間。
必死に眠気に抗う春雨と、それを救いたい囚慈から伝わってくる無力感。
春雨が最後に囚慈へすっごい数の「好き」を伝えられなかったシーンで号泣です。
というかこれ書いてる今も思い出して泣きそうになってるぐらい、心を抉られたシーンです。
それほどまでに、残酷で、美しいシーンでした。


春雨が消えてしまった後の、θ郎とキイロが全力疾走して家へ向かう場面も泣けますね。
自分には何もできなかったと悲しむ囚慈に、「それは違うよ。囚慈は春雨を救えたんだよ」と伝えるために春雨の夢を書いた折り紙を一秒でも早く見せるために走る。
全力疾走に身体が悲鳴をあげているのに、苦しくて仕方ないのに、θ郎とキイロがステージを入れ替わりながら根性で必死に走るこのシーンが僕は大好きです。

そして明かされる、春雨の夢。

きえていなくなるまえに うまれてきてよかったとおもいたい

( ;ω;)春雨えええええええええええええええええええええええええええ!!!

何度も何度も二人が繰り返し言ってきた「てきてよ」がここでぶっ刺さるんですよね。
ホントこの展開に痺れましたわ…。比嘉先生、一生ついていきます…。



そしてエピローグ。

目を覚ました一色華の実と再会するチーム市川櫻介。
残念ながら本作において、どのような会話があったのかは描かれませんでしたが、きっと彼女は笑顔を取り戻したんだと思います。
だって、比嘉智康作品ですし。
華の実ちゃんの今後にどんな物語が待ち受けているかはわかりませんが、きっと幸せになれると思います。
春雨たちが頑張って辿りつくことが出来た未来なんですもの。


場面は再び移り変わって、最後はチーム市川櫻介が心地よい春の夜に散歩するシーンで終わります。

坂本九の一人ぽっちの夜を口ずさむ囚慈に、「いつだって三人ぽっちの夜だからよ」と笑うθ郎。
それにつられて笑いだす囚慈とキイロ。

春雨との別れという悲しみを乗り越えて、3人はこれからも笑っていけるんでしょうね。
切ないけど、優しい素敵な終わりでした。

長々と感想書いてみましたが、やっぱりいい作品ですね。

あとがきに比嘉先生の作者としての悔しさがたっぷりと書かれています。
どうにか、閉ざされたスニーカーの箱を開いて、まだ見ぬ世界を僕たちに新たな作品を読ませてほしいですね。
比嘉先生の作品はこんなにも面白いんだぞ!と声を大にして世界に伝えたい。
これからも比嘉先生の色んな作品が読みたいな。
そして読み終えるたびに、こう言いたいなと思うなんぶなのでした。

てきてよ。








メディアワークス文庫公式ページ/私が大好きな小説家を殺すまで
↑冒頭部分の試し読みあります

著者 斜線堂有紀

『憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んで欲しかった』
(『私が大好きな小説家を殺すまで』本文より引用)

あらすじ

突如失踪した人気小説家・遥川悠真。その背景には、彼が今まで誰にも明かさなかった少女の存在があった。
遥川悠真の小説を愛する少女・幕居梓は、偶然彼に命を救われたことから奇妙な共生関係を結ぶことになる。しかし、遥川が小説を書けなくなったことで事態は一変する。梓は遥川を救う為に彼のゴーストライターになることを決意するが――。才能を失った天才小説家と彼を救いたかった少女、そして迎える衝撃のラスト! なぜ梓は最愛の小説家を殺さなければならなかったのか?
(メディアワークス文庫公式ページより引用)


【ネタバレを避けた紹介】

ある小説家に命を救われた少女と、彼女を救い、そして彼女に殺された小説家の物語。
母親により追い詰められ、最愛の小説家の作品「遥かの海」と共に自身の人生を終わらせようと
踏切にて列車を待つ小学生、幕居梓。
「俺の小説持って死なれると困るんだよ。」と少女に声をかける小説家、遥川悠真。
その日から始まる、少女と小説家の奇妙な共生関係。
六年に渡る共生の果てに訪れる崩壊。
"のっぴきならない"関係の執着と愛憎の物語。

【非ネタバレ感想】

今まで触れてきた小説、漫画、映画、音楽…何かに対して、その作品を産み出した人を「神」と評したことはありませんか?
「神」と信仰してしまった経験はありませんか?

「神」もただの「人間」で、裏では苦悩している。
そんな一面に、身近で触れてしまったら───何もせずにいれるだろうか。
「神」の才能を信じて、再起できるよう励まして、行動してしまうのではないのだろうか。

自らの作品のファンである少女を救うも、才能を失ってしまった天才小説家。
誰よりも彼の作品を愛し、彼を救うために全盛期の彼そっくりの文体でゴーストライターとなる少女。

信仰と愛憎の果てに訪れる、目を覆いたくなるような破滅と崩壊。
ハッピーエンドなんてありません。
『私が大好きな小説家を殺すまで』というタイトルに嘘偽りはまったくありません!!!ちくしょう!!!
ただ、創作する人、それを読むことを楽しみに生きている人には読んでもらいたい。
そんな作品です。

【ネタバレありの感想】
↓に書いてますので未読者はここでブラウザバックしてネ。





































はい、ここまで読んでるあなたは既読者ですよね?
未読者は書店で「私が大好きな小説家を殺すまで」を買って読み終えてから読んでね…?

じゃあ、いくよ。




斜線堂先生、アンタなんてもん書いてくれたんだチクショウ!!!!

タイトルとかあらすじ読んだだけでハッピーエンドじゃないのはわかってたけどさ…覚悟して読んだってのにめちゃくちゃ刺さりましたよこの作品…。
あまりに衝撃的だったので、気持ちを整理するために必死にキーボードを叩いてこの感想記事を書いてます…。

まず主人公である幕居梓ちゃん。
母親から受けている虐待。押入れの、暗闇の中で毎日過ごす12時間がつらすぎる。
そんな少女にとっての唯一の中の希望とも言える『頭の中の私だけの本棚』。
暗闇の中で、図書室で読んだ本を繰り返し反芻する。
そんな境遇で育ってきた彼女にとって、「遥川悠真」という存在は紛れもなく神で「信仰」の対象になるのも仕方ない。
小学生時代の彼女が遥川先生と出会い、救われたシーンにはタイトルのことを忘れて僕も心底ホッとした。

誰よりも深く、彼の作品を読み込み、未発表の作品に触れてきた少女が『全盛期の遥川悠真』のコピーとなり、
彼を救うために書き上げた小説が結果的に彼を殺す一因となってしまったことが悲しすぎる。
若さ───というよりは幼さ故の衝動で、書き上げたラブレターが信仰の対象である「神」を殺すなんて、あまりにもつらい。

小学生時代の屋上で星を見るシーンや遊園地デート、そして卒業式で先生を見つけたときの彼女の心情が丁寧に描写されているので結末がより悲惨なものに感じる。
小学生から中学生、そして高校生とどんどん成長していく彼女と、それに対比するように崩壊していく先生との関係に読み進めるのがつらくなった。

プロットの件で大きくすれ違い、そして部長による告発を目の前にした終盤、終わりを予感させながらも先生と結ばれるシーンがとても好き。
本作品とは関係ないんだけども、ポルノグラフィティのWinding Roadという曲の歌詞が頭をよぎって泣く。
「ただ君が好きだった 気持ちに嘘はないのに」
「どこかで掛け違えたボタンを外せないままになった」


どうか、本編のその後に”あっち”で彼女と先生が再会して、今度こそ幸せな結末を迎えてほしいと願う。

というか蕎麦エキスの件、そうきたか!と震えました。怖いよ梓ちゃん…



次、遥川先生。

梓ちゃんの信仰の対象であるものの、彼はただの「人間」。
「神」という役割を自らのファンに押し付けられてしまった、弱い「人間」。

小学生の梓ちゃんを救ってくれた姿にはホッとしたし、その後の彼女との共生も読んでて応援したくなる。
天才小説家として2連続大ヒット、そして3作目の不評で味わう挫折。
この辺りの描写は読んでて息苦しくなった。
それまで梓ちゃんを救う大人として描かれていた先生がどんどん弱っていくのが。

そして梓ちゃんから寄せられた『無題』という名のラブレター。
スランプの中で苦しんでるときに、かつて自分が救った少女に自分以上の才能を感じるのが残酷すぎる。

終盤に明かされるプロットの件の真実と先生の心情に泣いた。
「俺が落ちぶれるのが嫌だった?こんなのは自分が憧れた相手じゃないって?期待って残酷だよな。応えたかったよ、俺だって」
ここ、先生の人間臭さが際立つセリフでとても好きです…。

梓ちゃんから送られた『部屋』を読んで取り乱した彼の姿が直接描写されなくて助かった。
突然先生視点でそこ描かれたら本作品から受けるダメージは倍増してたと思う…。

最後に。

二人とも愛し合ってたのに、迎える結末があまりにも美しく残酷すぎる。

ノベルゲームのBADENDを迎えたような読後感がありました。
彼らの物語には分岐点がたくさんあって、この作品はその中の一つを切り取ったものなのかもしれない。
終盤とか特に読み進めるのがつらくなったけど、読むことができて良かったと思う。

本作品を執筆した斜線堂有紀先生と、素敵な表紙を描いてくださったくっかさん両名に感謝を。
そしてVtuber本山らのちゃんの呟きによってこの作品と出会えました、ありがとう!

( ^ω^)…

(;^ω^)この記事書き終えた今も胸にトゲ刺さってるような気がするんですけど!!!誰かタスケテ!!!




総合に投下した短編。
オチも考えず1時間でどんなもんが書けるかの習作。

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o川*゚ー゚)o「あーもう!いくら検索しても出てこないよぉ!」

深夜──というかもうそろそろで早朝というべき時間帯にも関わらず私はモニタとにらめっこしていた。
原因は部屋の模様替え中についつい見つけてしまった、とある少年漫画。
10代の少女の頃にハマっていた作品で、実家から上京する際に持ち出したものだ。
そろそろアラサーだという今になって、読み返してみたがこれが面白いのなんのって。

そしてこの漫画にお熱だった頃、毎日のようにアクセスしていたファンサイトを探すためにこんな時間まで電子の海を彷徨っていたのである。
嗚呼、あの頃の理想郷よ。どうしたら私は辿りつけるのだろうか。



o川*゚ー゚)o「んー…氷帝系のサーチに登録してあったはず…」

一大ジャンルだけあってお目当てのサイトを探すのに苦労する。
かつては一日に何度もアクセスしていたサイトだというのに、何故こうも思い出せないのか。

o川*゚ー゚)o「はいここも違うー!」

違う違う違う。
確かに好きなCPだけどさー、私が見たいのはあの時、夢中になってたあのサイトの二次創作なんだよね。

何度、新規ウィンドウを立ち上げては閉じただろうか。
ようやく、お目当てのサイトを発見することができた。
時計を見ると朝の4時。こりゃ寝不足確定。つーか会社休みたい。



o川*゚ー゚)o「まさかまさかのメインで取り扱ってるCPじゃなかったなんてね」

私が当時夢中になって読んでいた作品は、神(あまりにも尊い作品をお書きになられるので私はこう呼んでいた)が『息抜き』に書いた作品だったのだ。
あぁ、そういえばこのCPに目覚める前はこのサイトでメインに扱われているCPに萌え死ぬ日々だったんだなと思い出した。
神が私に新たな世界を見せてくれたのだったな。やっぱ神って偉大。

o川*゚ー゚)o「あ、これだこれ…」

見つけた。
どれだけこの作品で萌え死んだだろうか。
10代の多感な時期に出会い、私の宗派を替えさせた問題作。
明日のことなんかもうどうだっていい。今の私の最優先事項はこの作品だ。


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o川*゚ー゚)o「はぁ~~~~~(感極まって出てきたクソデカ溜息)」

読み終えた。
そして忘れかけていた大事な何かを取り戻せた気がした。
(気がしただけで実際は貴重な睡眠時間を全て失っただけだ)

o川*゚ー゚)o「自分が大好きだったモンは今読んでも面白いね…」

多分これ読んだのは10年近く前だというのに、内容はなんとなく覚えてた。
原作ではそんなに好きじゃなかったキャラが、この作品と出会って新たな視点から見れるようになった。
ドハマりして色々手を付けたなァ。
キャラソン、グッズ、そういえば同担の人たちとオフ会もしたんだっけ。

o川*゚ー゚)o「みんな元気にしてっかね…」

高校を卒業し、就職するために上京。
忙しくなって段々と作品からも疎遠に。
Twitterもぜんぜん呟かないようになって…。



o川*゚ー゚)o「そして何気なく見た深夜アニメにハマって…」

それまで使ってたアカウントで別の作品についてだらだら語るのがなんか申し訳なくなって。
新しいアカウントを作って。そして新しくハマったアニメについてひたすら語って…。

o川*゚ー゚)o「タイバニ面白かったな。滅茶苦茶ハマったもん」

そして自分好みの二次創作を探して、ついには自分で書く側になったりして。

o川*゚ー゚)o「そっからだよね。色んなジャンルをホイホイ乗り換えるようになったの」

とりあえずTwitterで盛り上がってるからアニメを見てみる。
面白かったから、その作品が好きな人同士で繋がる。
しばらくはそうやって夢中になって仲良くするんだけど、自分好みじゃない二次創作とか流れてくるとミュート。

そしてしばらくしたら別の新しい作品に夢中。
いつだって、盛り上がってる作品について語り合うのが好きなんだ。

o川*゚ー゚)o「って、妙にネガティブなこと考えるのはやめやめ!」

o川*゚ー゚)o「今が楽しければいいじゃんね」

そうだ。
素晴らしい作品と再会できたんだから、神へ感謝の気持ちを伝えねば。

o川*゚ー゚)o「BBSは…持ってないかー」

あー、懐かしい。
もうひと昔前のサイトだとBBSあったりしたんだけど。
この頃のファンサイトはweb拍手とか主流だった気がする。
匿名で投げたコメントに対して、ブログで返信してくれるんだよね。
Twitterのマシュマロとかを先取りしてたサービスにも思える。

o川*゚ー゚)o「プロフページ、プロフページっと…」

あった。
プロフィールページへアクセス。表示される当時流行っていた文体で書かれているプロフィール。
今になって読み返すと独自のネットスラングで書かれててノスタルジー。

o川*゚ー゚)o「人によっちゃ黒歴史みたいな文体だよねこれ…」

いつだって、ノリで書いたものを読み返すのは恥ずかしい。
人間ってそういう恥ずかしさを味わいながら成長してくんだと思う。



o川*゚ー゚)o「お、Twitterへリンク張ってあるじゃーん」

サイトの最終更新はずっと昔の日付。
あの神は今、何に夢中になっているのだろうか。
別ジャンルで今もガンガン活躍してたりするんだろうか。

o川*゚ー゚)o「この人の書く作品好きだから、別ジャンルで活動してんならそっち履修するのもアリだよね」

ポチっとな。
表示される神のTwitter。よかった。垢消しとかはしてないみたい。

o川*゚ー゚)o「ありゃ?でも動いてないっぽいねぇ」

別アカウントに移行でもしたんだろうか。
ま、そういうこともあるよね。いつまでも同じ作品で活動し続けるのも大変ですし。



o川*゚ー゚)o「むむ。お引越しとは言ってないなぁ」

最新の呟きを見ても、別ジャンルへ移行だとか、Twitterやめますとは書いてない。
書かれているのは日常で起きたこと。
そろそろ妹の卒業式の日だ、とか。花粉症が辛いとか。

o川*゚ー゚)o「あれ、この、日付」

気付いてしまった。
私が再会したと思った神は。

o川*゚ー゚)o「そっかぁ。そりゃ、何も言わずにTwitterもサイトも更新止まっちゃうよな…」

サイトのプロフで確認した住んでいる県、そして。

最後の呟きが2011/3/11という日付だったこと。



その日を最後に私が崇拝していた神はこの世からいなくなってしまったのだろう。

死んでしまったとか、リアルのそういうのはよくわかんないけど。

もう、あの人が書く新作を読むことは出来ないのだ。

o川*゚ー゚)o「…身内にあの時亡くなった人がいなかったから」

o川*゚ー゚)o「…自分にとっては遠い世界の話のように思えたけど」

o川*゚ー゚)o「こういう形で、傷跡を感じる日がくるなんて、ね」

朝6時。今日は体調不良ということにして会社を休んでしまおう。

そう思って私はPCをシャットダウンした。


o川*゚ー゚)o電子の海へ鎮魂歌を。のようです

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